給湯室や、ランチの席や、会議が始まる前の雑談。そこにいない誰かの話になることが、職場ではよくあります。
そして、いない人の話は、なぜか少しだけ悪口に転がりやすい。誰かが小さくため息をつけば、つられて自分も同調してしまう。帰り道、なんとなく後味が悪い。そんな経験は、たぶん誰にでもあります。
今日は、その逆をやってみる話です。
その人がいない場所で、その人を褒める。陰口の反対だから、「陰褒め」です。
陰で褒める言葉は、なぜか深く信じられる
「あの人の資料、いつも分かりやすいですよね」「先週、他部署の○○さんにすごく丁寧に対応してもらって」
本人がいない場所でのこういう一言には、面と向かった褒め言葉にはない強さがあります。お世辞である可能性が、ゼロだからです。本人に聞こえないところで褒めても、ご機嫌取りにはなりようがありません。だから、聞いた人は素直に信じます。
そして、陰褒めには面白い性質があります。回り回って、本人に届くことがあるのです。
「そういえば、○○さんがあなたのこと褒めてましたよ」。人づてに届いた褒め言葉は、直接の何倍もうれしいものです。
届くかどうかは、運です。でも、届かなくても損はひとつもありません。それがこの親切のいいところです。
届かなくても、先に変わるものがある
陰褒めの効き目は、実は本人に届く前から始まっています。
- その場の空気が、ふっと明るくなる。いない人を褒める会話は、聞いている全員を安心させます。「この人は、私がいないところでも悪く言わない人だ」と
- 自分の目が、人のいいところを探すようになる。あとで褒めようと思って人を見ると、不思議と長所のほうが目に入ります
- 口癖が変わると、気分が変わる。一日の終わりの後味が、少しだけよくなります
人との関わりが薄くて寂しいとき、私たちはつい、関わりの少なさを嘆くことに時間を使ってしまいます。でも、いない誰かを一言褒めることは、その場にいる人との関わりを温め、いない人との関わりまで静かに育てる。一言で二つの方向に効く、めずらしい行為です。
いない人を褒める人のまわりには、安心が積もります。いちばん深く積もるのは、自分の足元です。
うまく言おうとしなくていい
大げさな賛辞は要りません。「あの人、メールの返信が早くて助かるんですよね」くらいの、事実に近い小さな一言で十分です。よく知らない相手なら、なおさら小さな事実でいい。むしろ小さいほうが、本当らしく響きます。
そして、できない日があっていいのです。人のいいところを探す余裕なんてない日は、誰にでもあります。無理に褒め言葉をひねり出す必要はありません。
ただ、今度、いない誰かの話になったとき。流れに乗って曇らせる代わりに、ひとつだけ、いい話を置いてみてください。
その一言がどこまで転がっていくかは、誰にも分かりません。分からないまま放つ小さな光、というのも、なかなかいいものです。